東京地方裁判所 平成11年(ワ)22913号 判決
原告 荻原昭義
岩崎寅司
岩崎絹代
中島敏夫
西井光子
久保木諦二
右六名訴訟代理人弁護士 楠啓太郎
被告 東松苑株式会社
右代表者代表取締役 中島篤志
右訴訟代理人弁護士 朝日純一
主文
一 被告は、原告荻原昭義、原告岩崎絹代、原告中島敏夫、原告西井光子及び原告久保木諦二それぞれに対し、金一五〇〇万円及びこれらに対する平成一一年一〇月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告岩崎寅司に対し、金六〇〇万円及びこれに対する平成一一年一〇月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は、ゴルフ場の開発及び経営等を目的とする株式会社である。
2(一) 原告荻原昭義は、平成三年四月三〇日、被告が経営する東松苑ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ倶楽部」という。)に入会して、別紙ゴルフ会員権目録一記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権一」という。)を取得し、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部開場後一〇年間を据置期間とし、右期間経過後、請求により返還するとの約定により、個人平日会員の資格保証金一五〇〇万円を支払った。
(二) 原告岩崎寅司は、昭和六二年五月三一日、本件ゴルフ倶楽部に入会して、別紙ゴルフ会員権目録二記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権二」という。)を取得し、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部開場後一〇年間を据置期間とし、右期間経過後請求により返還するとの約定により、個人平日会員の資格保証金六〇〇万円を支払った。
(三) 原告岩崎絹代は、平成二年一二月三一日、本件ゴルフ倶楽部に入会して、別紙ゴルフ会員権目録三記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権三」という。)を取得し、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部開場後一〇年間を据置期間とし、右期間経過後請求により返還するとの約定により、個人平日会員の資格保証金一五〇〇万円を支払った。
(四) 原告中島敏夫は、平成二年四月三〇日、本件ゴルフ倶楽部に入会して、別紙ゴルフ会員権目録四記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権四」という。)を取得し、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部開場後一〇年間を据置期間とし、右期間経過後請求により返還するとの約定により、個人平日会員の資格保証金一五〇〇万円を支払った。
(五) 原告西井光子は、平成三年三月一五日、本件ゴルフ倶楽部に入会して、別紙ゴルフ会員権目録五記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権五」という。)を取得し、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部開場後一〇年間を据置期間とし、右期間経過後請求により返還するとの約定により、個人平日会員の資格保証金一五〇〇万円を支払った。
(六) 原告久保木諦二は、平成三年四月三〇日、本件ゴルフ倶楽部に入会して、別紙ゴルフ会員権目録六記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権六」という。)を取得し、被告に対し、本件ゴルフ倶楽部開場後一〇年間を据置期間とし、右期間経過後請求により返還するとの約定により、個人平日会員の資格保証金一五〇〇万円を支払った。
3 本件ゴルフ倶楽部は、平成元年一〇月一五日に開場した。
4 よって、原告荻原昭義、原告中島敏夫、原告西井光子、原告岩崎絹代及び原告久保木諦二は、被告に対し、前記ゴルフ会員権の資格保証金返還請求権に基づき、それぞれ金一五〇〇万円及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日である平成一一年一〇月二四日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を、原告岩崎寅司は、被告に対し、資格保証金返還請求権に基づき、金六〇〇万円及びこれに対する右同日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因事実は認める。
三 抗弁
1 本件ゴルフ倶楽部の原始会則第八条但書には、「但し、天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情が発生した場合には、その事情が止んだときより正会員については三年間、平日会員については一〇年間据置期間は延長されるものとする。以後も同様の取扱いとする。」と定められており、右要件が充足した場合には、理事会又は取締役会の延長決議を要件としないで、直ちに据置期間が延長されるとの規定がある。
2 本件ゴルフ倶楽部においては、平成三、四年ころから、以下のとおり、「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」が生じ、現在まで継続しており、原告らの資格保証金の据置期間は延長された。
(一) 「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」とは、「天災、地変」のような自然現象に留まらず、一般に予測不可能な過大な経済変動を契機として到来した会員権の相場価格の大幅な額面割れに起因する会員の資格保証金返還請求の殺到によるゴルフ場の破綻の客観的な蓋然性が強いと判断される事情をも指すというべきである。
本件ゴルフ会員権が発売された当時は、経済の安定的成長が見込まれていた時代であり、ゴルフ会員権の相場価格が大幅に下落するとは予測できなかったし、資格保証金については、会員権市場からの回収が当然視されており、資格保証金返還請求権の行使は予定されていなかった。
しかるに、本件会員権発売後、かつて経験したことのないバブル経済になり、その後バブル経済が破綻した。その結果、ゴルフ会員権価格は大暴落し、会員権相場が額面額を長期的かつ著しく大幅に下落したため、会員は、会員権の処分ではなく、資格保証金返還請求権を行使して資格保証金の返還を求めることになり、本件ゴルフ倶楽部も右の事態に至った。本件ゴルフ倶楽部の会員権の売却代金は既に本件ゴルフ場建設費用等に使用済みであり、ゴルフ場来場者数の減少やプレーフィーの低価格競争によって、本件ゴルフ倶楽部の年間利益も減少しており、被告の自己資金で資格保証金の返還に応じることは不可能であるし、これに応じれば本件ゴルフ倶楽部の破綻を導くことになる。
このようなバブル経済の破綻に伴う現在の本件ゴルフ倶楽部の経済状況は、開場時における予測を越えた事態であり、被告の責めに帰すべき事由とはいえないし、被告において、資格保証金を返還するための資金を用意できないことにも被告の帰責性はない。
(二) 平成一一年三月二五日、被告は、取締役会において、資格保証金返還請求問題の対応を協議するため、本件ゴルフ倶楽部の理事会を開催することを決議し、同月二八日、右決議に基づいて開催された理事会は、右問題の対応策については理事長及び被告に一任することを決議し、同年五月八日、被告は、右理事会決議に基づき、取締役会において、正会員及び平日会員の資格保証金償還期限を平成二一年一二月三一日まで延長することを決議した。
被告は、平成一二年二月二六日までに、右償還期限の延長について、正会員及び平日会員の総数の七六・二三パーセントの同意を得た。
よって、右(一)に述べたような事情が、「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」に該当し、資格保証金据置期間は延長されたと解釈するのが当事者の合理的意思解釈に合致するといえる。
(三) ゴルフ会員契約は、集団的契約であり、一部会員に対する義務を履行することにより、その他の多数の会員に対し義務を履行することができなくなるという団体的性格を有し、かつ、継続的契約であることに鑑みると、合理的な範囲内で内在的制約に服し、やむを得ない事情のあるときは解約が制限されるという性質を有する契約と考えるべきであり、本件会則第八条但書は右趣旨と同様の内容を定めた条項である。
(四) 本件ゴルフ倶楽部の資格保証金返還期限延期は約一〇年間にとどまるものであり、かつ、被告は、利益の留保等経営努力を継続している一方で、会員に対し、株主会員制に転換する等の代償措置を採っており、資格保証金の返還請求権は実質的に確保されている。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 抗弁1の事実は認める。
2 同2は争う。
(一) バブル経済の崩壊により、ゴルフ会員権の市場価格が暴落し、大量の資格保証金返還請求が生じたこと、被告が資金不足に至ったことなどの事情は、「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」と解することはできない。
(二) 資格保証金返還の据置期間を延長することは、原告と被告との間の契約上の基本的かつ重要な権利の行使を長期にわたり延期するという重大な変更を加えることになるから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、承諾を得ていない会員に対し、据置期間の延長を主張することはできない。
(三) ゴルフ会員契約については、会員間に有機的な結合関係がなく、個々の会員と経営会社との契約が会員の数だけ存在していると考えるのが自然であり、会員契約の集団的性格を理由として、会員の資格保証金返還請求が制限を受けることはない。
理由
一 請求原因事実は、当事者間に争いがない。
二 抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。
三 そこで、本件ゴルフ倶楽部の資格保証金について、本件ゴルフ倶楽部の会則第八条但書が定める「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」が生じたことにより、据置期間が延長されるか否かを検討する。
1 まず、本件ゴルフ倶楽部の会則は、一種の約款として、本件ゴルフ倶楽部の会員と被告との間の本件ゴルフ倶楽部に関する契約上の権利義務の内容を構成するものと理解できるところ、会員の資格保証金の据置期間を延長することは、会員と被告との間の契約上の権利に重大な変更を加えるものであるから、会員の個別的な承認を得る必要があり、一定の事情が生じたときに当然に据置期間が延長されるというような定めは、約款としての効力を有すると解することはできない。
2 仮に、本件ゴルフ倶楽部の会則第八条但書の定めが有効と解する余地があるとしても、本件ゴルフ倶楽部の会則第八条但書が定める「その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」とは、その前の例示に挙げられているような天災、地変に比すべき事情をいうものと考えられるのであり、本件における被告の事情は、要するにいわゆるバブル経済崩壊後の不況の中で経営危機に瀕している一方で、予期に反して多数の会員から委託証拠金返還請求を受けたため、返還請求のすべてに応じるときは、被告が経済的苦境に陥るということであって、このような事情をもって、会則第八条但書が定めるやむを得ない事情に当たると解することはできない。
また、バブル経済崩壊後の経済状況の変化は、本件ゴルフ倶楽部を経営する被告が、事業経営者として予測すべき範ちゅうに属する事柄であり、これを予測することなく、資格保証金返還請求に対応し得る準備を何もしてこなかった被告の対応について、被告の責めに帰すべき事由がないとはいえない。
3 前記1のとおり、資格保証金返還の据置期間を延長するというような会員の基本的な権利を縮減し、又は会員に対し重大な義務を新たに課することを内容とする事項については、会員の個別的な承認を要すると解すべきである。
したがって、本件ゴルフ倶楽部の理事会が据置期間の延長を決議し、これについて正会員及び平日会員の総数の七六・二三パーセントの同意を得ていることをもって、「天災、地変その他会社の責に基づかないやむを得ない事情」に該当すると解釈することはできない。
4 ゴルフ会員契約は、集団的契約であり、かつ、継続的契約であることに鑑みると、合理的な範囲内で内在的制約に服し、やむを得ない事情のあるときは解約が制限されるという性質を有する契約と考えるべきであるから、本件会則第八条但書は右趣旨と同様の内容を定めた条項として有効であるとの被告の主張は採用できない。
5 証拠(乙二〇、二一の1)によれば、本件ゴルフ倶楽部の預かり保証金総額が約二五四億円であるところ、ゴルフ場経営会社の手持ち現金及び預金は約四三〇万円で、その他資格保証金返還に即座に対応できる資産も認められない状況にあり、かつ、年間経常利益は約一億五〇〇〇万円程度にとどまっていることが認められ、右事実によれば、今後被告が再度の償還期限の到来に備えるため最大限償還原資を留保できるよう経営努力を行う予定であるとしても、一〇年の据置期間の経過後に、資格保証金の返還に応ずることが合理的に期待可能であるということはできない。また、資格保証金の更なる据置期間は、一〇年と長期間であるから、入会契約に基づく会員の基本的な権利である資格保証金返還請求権を実質的に剥奪する結果となる可能性もある。
6 以上によれば、いずれの観点からしても、原告らの資格保証金の据置期間が延長されたと解することはできず、被告の抗弁は認められない。
四 以上の検討によれば、原告らの被告に対する本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 前田順司)
別紙<省略>